やっとまともな自己紹介が出来そう
ー中学3年生男子:高校入学を目前にー

小学生と中学生の初め頃、僕の苦手なことは、『自己紹介』だった。
本来それは、初めて会った相手に対し、自分の事を知ってもらう為にすることだが、「s」の発音が上手く出来なかった僕は、人前で言葉を発することがとても苦痛でたまらなかった。
思えば、自分の発音がおかしいと自覚したのは、小学3年生くらいのころだったろうか。小学2年の秋に転校し、全校生徒の前で自己紹介をし、笑われたことを今もはっきりと覚えている。幼い頃は、その事を深く考えずにいたのだが、発音がおかしかったということなのだろう。
それから、小学6年生の卒業式。一人ひとりが自分の夢をステージの上で話す機会が設けられた。もちろん、「大声で
ハキハキと」という“めあて”のもとで。日本語というものは本当に面倒くさいと当日は思っていた。丁寧語になれば「です。
ます。」が必ず付く。実は、僕は、「s」の発音が出来ないということを知られないようにする為、なるべく「s」を用いない文字や単語を使うという工夫をしていた。
しかし、これから次々に行うことになるであろうスピーチや発表事に丁寧語は必要不可欠である。そんなことを考え、自分の工夫にも疲れていた僕は、「発音が良くならないのは、歯並びが悪いからではないか?」と母に相談した。そう思うのも無理はなかった。事実、小学6年生までの6年間以上『ことばの教室』に通っていたが、発音は良くならなかったからだ。
そうして歯を治そうと行ったクリニックのことばの先生に言われた事は、「歯を治さなくても発音は出来るかもしれない。」ということだった。
半信半疑だった僕は、とりあえず先生の言う通りにしているうちに「s」の発音が出来てしまった。6年以上を費やしても出来なかった発音が1回足らずで出来てしまった。
もっと早く先生のもとを訪れていればと、つくづく思うが、過去のことはこの際笑い話にでもして、新しい人生を歩んでいこうと思う。高校入学前に治せて本当に良かった。やっとまともな自己紹介が出来そうな気がする。

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